1年に一度しか聴けない、宝塚記念専用のファンファーレ。
その響きを聴くと、上半期のGⅠシーズンの終わりと、夏の訪れに想いが飛ぶ。
それはどこか、有馬記念とは違った手ざわりの、感傷。
夏が来る、ということは、夏が終わる、ということ。
ファンファーレを聴きながら、いつものように夏の終わりに想いを馳せる。
ゲートが開き、17頭が駆けだす。
スタンド前の直線を使っての先行争い。
同型が揃い、先手を取るのはどの馬かが注目されたが、譲らなかったのは吉田豊騎手のパンサラッサ。
好発を決めた横山和生騎手のタイトルホルダーは、押して出てしばらくパンサラッサと鍔迫り合いを見せたものの、番手のポジションへ。
外、15番枠からのディープボンド、あるいは12番のウインマリリンあたりも前目を取りに行き、先行集団を形成。
さらにその後にはダミアン・レーン騎手のヒシイグアス。
そして大阪杯からの雪辱を期す、1番人気エフフォーリアはちょうど中団の内目、それをデアリングタクトがマークするような形。
序盤、激しくなった先団争いは、2ハロン目に10秒4という早いラップをマークする。
向こう正面に入っても、パンサラッサは軽快に飛ばし、前半1000mの通過は何と57秒6。
中距離のGⅠとしても、例を見ないようなハイペース。
となれば、後ろから行く馬たちに目が出てきそうなもの。
しかし、どうも道中から手綱を動かす姿が目立つなど、後続の各馬は追走するだけでも苦労していそうだ。
3コーナーを回っての勝負どころでも、各馬が遅れまいと、なだれ込むようにして先頭を追走していく。
それは、スローペースの中、脚を溜めに溜めて、仕掛けのタイミングの刹那を推し量るようなレースとは、一線を画すようだった。
歴戦の猛者ぞろいの、このクラスのレース。
息を入れずに、最後の直線に向かうなど。
それは、どこまで深く潜れるか、その耐久力と精神力を競っているような、そんなレースにも見えた。
パンサラッサが先頭で4コーナーを回る。
それにタイトルホルダーが並びかける。
手綱の手応えはまだ十分に残っていそうだ。
後ろからは、和田竜二騎手が激しく追うディープボンド、内にウインマリリン、その間からヒシイグアスが迫る。
さらに外からマイネルファンロン、そして松山弘平騎手の左鞭に応えて、デアリングタクト。
残り200m、抜け出したタイトルホルダー。
脚色は衰えず、さらに後続を突き放す。
それを追うヒシイグアス。
しかし差は縮まらない。
タイトルホルダーが、押し切った。
勝ち時計2分9秒7は、2011年同レースのアーネストリーのレコードを、0秒4短縮する、大レコード。
2着にはヒシイグアス。
そして差してきたデアリングタクトが、際どくも3着を確保。
ディープボンドはわずかに差されての4着、そしてマイネルファンロンまでが掲示板となった。
1着、タイトルホルダー。
ファン投票1位の期待に、大レコードで見事に応えた。
例年、ぐずつく天候が、今年は空梅雨もあり良馬場での開催。
さらには、京都競馬場の改修で、開催日程が変更になっていることもあり、例年の開幕最終週とは違う、傷みの少ないコンディション。
それを差し引いても、素晴らしい時計。
今後、しばらくは破られることのない、大レコードなのではないか。
ラップを見ても、レース自体はハイペースに間違いはないのだが、後方のポジションからレースを進めた馬たちが、ほとんど着順を上げることができていない。
パンサラッサが刻んだのは、追走する馬たちのスタミナを削るようなペース。
あまり例を見ない、サバイバルと呼べるような、そんなレースになった。
そんなペースの中、パンサラッサの番手を苦もなく追走。
3コーナーから4コーナーにかけては、1頭だけ手応えが違うような、そんな反応をしていた。
これで、菊花賞、天皇賞・春に続いて、GⅠ3勝目。
類まれなるスタミナと、それに裏付けられた持続力、そして底力。
ステイヤーとしても一流の走りを見せながら、中距離でもスピードを見せつける。
スーパークリーク、メジロマックイーン、ビワハヤヒデ…その走りは、古きよきステイヤーの系譜を、想起させる。
個人的には、天皇賞・春が大好きなレースなので、このタイトルホルダーの快進撃が、天皇賞の価値を上げることを嬉しく思う。
いずれにせよ、ファン投票1位で、グランプリを勝った事実は重い。
その期待を背負って、次はどのタイトルを目指すのか。
10月2日、凱旋門賞。その事前登録には名前があるが、さて。
2022年、宝塚記念。
空前絶後のハイペースを押し切りGⅠ3勝目を挙げた、タイトルホルダー。
空梅雨の阪神、その青空は、ロンシャンへとつながっているか。