心理学を学ぶことは、多くの恩恵をもたらしてくれます。
その最も大きな恩恵の一つは、自分と向き合うことで、周りの人をより深く理解し、よりよいコミュニケーションが取れるようになることです。
そのためには、まずは自分事として自分と向き合うことが求められます。
年始から読み返している名著「傷つくならば、それは「愛」ではない」(チャック・スペザーノ博士:著、大空夢湧子:訳、VOICE:出版)の一節から。
1.支配したいという欲求は、怖れから生まれる
だれかを支配しようとするとき、たぶんその人の心のなかには、こわがっている子供が住んでいるのです。
だれかがあなたを支配しようとしているときは、こんなふうに考えてみてください。
もし、その人があなたのそばでこわがって震えている子供だとしたら、その子にどんなふうに接してあげるだろうか、と。
その子が必要としているものを与えてください。
安心させ、援助してあげることで、あなたのほうも相手から抑圧されたという気分にならずにすむことでしょう。
また、あなたがだれかを支配しようとしているときは、あなたのなかに怖れを感じている小さな子供がいるのです。
相手の人に、何がこわいのかをつたえてみてはどうでしょう。
コミュニケーションし、手をさしのべ、受け入れることによって、怖れは癒されます。
それは相手にとっても、すばらしい贈り物になることでしょう。
「傷つくならば、それは「愛」ではない」 p.33
2.コントロールは、怖れから生まれる
いろんな形のコントロール
支配というと、とても強い表現になり、日常的ではないのかもしれませんが、コントロールというと、とても親しみが出ます。
私たちは、よく誰かをコントロールしようとしてしまいます。
子どもを、パートナーを、部下を、上司を、あるいは親を・・・
それは、子どもを相手にした親が「こうしなさい」「あれをしないとだめだよ」などと、文字通りコントロールしようとすることもあるでしょう。
あるいは、少し気づきにくいところだと、「不機嫌になる」ことで、パートナーをコントロールしようとすることもありますし、「わざとおかたづけをしない」「ジュースの入ったコップを倒す」ことで親の関心を得ようとする子ども側のコントロールもあるでしょう。
意識的にせよ、無意識的にせよ、誰かをコントロールしようとしてしまうのが、私たち人間の心理というものです。
こわがっている子どもがいる
その心理に対して、上に引用した本書では、「その人の心のなかには、こわがっている子供が住んでいる」といいます。
何かが怖いからこそ、支配しようとしたり、コントロールしたりしようとする。
考えてみれば、当たり前の話なのかもしれません。
けれど、あらためてこうして言われてみないことには、気づかないものです。
そして、それを聞いただけでは、なかなか実感できないように思います。
まずは自分事として、自分が支配しようと、コントロールしようとしている場面を見つけ、そのときの自分の心と向き合うことが求められます。
そして、それに気づいたら、その子どもにやさしくできるようになります。
怖かったんだよね、と抱きしめてあげると、相手を支配したり、コントロールしようとしたり、しなくてすむようになります。
3.心理学を学ぶこととは、自分と向き合い続けること
自分と向き合うと、相手と深いコミュニケーションが取れる
心理学とは、ただ聞いて理解して終わり、というものではなく、それを自分事として考え、自分と向き合ったときに、その大きな恩恵が受け取れるようです。
自分の生を、よりよくするために使うことのできる学びである、と言えるでしょうか。
自分と深く向き合っていくと、表面的な感情とは真逆の、とても怖がって傷ついている子どものような自分と出会うことがあります。
そうした自分と出会うと、不思議なことに、相手の中にも、同じように怖がって傷ついている子どもがいることが見えてきます。
そうすると、相手が不機嫌だろうと、ネガティブな反応をしようと、そうした表面的なことに振り回されなくなっていきます。
その相手の心の中にいる子どもを、そっと抱きしめてあげることもできましょう。
「大丈夫だよ」と声をかけてあげることも、できるでしょう。
より深いコミュニケーションを取れるようになります。
そして、そのようにした分だけ、自分の怖れも癒され、満たされていきます。
その順序は、逆から行うことはできません。
自分事として、自分の心や内面と向き合うことが、すべての始まりです。
それを相手を分析したり、勝手に傷ついてると見做したりすることは、あまりいいコミュニケーションを生まないのでしょう。
すべてのものごとに言えることではありますが、「まずは、自分から」というのが、鉄則のようです。
自分と深く向き合うためには
自分と向き合うには、自分が持っている考え方、心の見方のクセといったものを知ることが役に立ちます。
こういう出来事に、こういう解釈を私はするのだな、それはなぜだろう、といったように。
それは、なかなか一人では気づきにくいものです。
誰かと話す、あるいはカウンセリングを受けるといったことは、その気づきを促してくれます。
カウンセリングの中では、お話しされる方ご自身が無意識にしている考え方や、心の癖に気づくこともあります。
それは、カウンセラー側が教えるとか、気づかせる、といったものではないと私は思います。
お話しされる方ご自身を信頼し、見守ることが、最も大切なことのように感じるのです。
何も教えなくても、諭さなくても、お話しされる方はご自身で気づいて、ご自身の道をよりよくする力を持っておられるのですよね。
それが、カウンセリングの不思議なところであり、素晴らしいところでもあります。