冬至を前に伊勢志摩をめぐりて陽を探す旅1 ~三重県伊勢市・外宮(豊受大神宮) 訪問記
冬至を前に伊勢志摩をめぐりて陽を探す旅2 ~内宮・宇治橋の大鳥居から日の出を望む
冬至を前に伊勢志摩をめぐりて陽を探す旅3 ~三重県伊勢市・内宮(皇大神宮)訪問記
冬至を前に伊勢志摩をめぐりて陽を探す旅4 ~三重県志摩市・天の岩戸 訪問記
冬至を前に伊勢志摩をめぐりて陽を探す旅5 ~三重県志摩市・伊雑宮 訪問記
伊雑宮の御料田を前にして、しばし目を閉じて座っていたが、次第に日が陰り始めてきた。
名残惜しかったが、冬の風が吹き始めてさすがに寒さを覚えた。
駐車場に戻って、車のエンジンをかける。
冬至前の伊勢志摩をめぐるこの旅も、あと一つの目的地を残すだけとなった。
「旅館橘」さん。
ありがたいご縁を頂いており、前回訪れた際にはここで絶品のランチをいただいたのだった。
この日は満席のようだったが、志摩市まで来てスルーして帰るわけにもいくまい。
志摩の街並みと海を見ながら、車を走らせる。
見覚えのある道と、途中で志摩スペイン村を見ながら。
15分ほど車を走らせると、橘さんにたどり着く。
美しき的矢湾。よく晴れていた。
せっかくなので挨拶だけでもと覗いてみたが、残念ながら社長は出張中とのことで、ご不在だった。
折しもこの日は有馬記念前日。
もし社長がいらっしゃたら、GⅠ馬11頭が揃ったドリームレースの予想談義に花が咲いたことと思うが、今日はそういう日ではなかったのだろう。
せっかくなので、名物の「かきのり」をおみやげに買って帰る。
牡蠣とあおさのりを一緒に炊いた佃煮、これが絶品に美味しいのだ。
しばらく的矢湾を眺めながらぼーっとしていると、駐車場には次々と車が入ってきた。
お邪魔してはと思い車にエンジンをかけ、駐車場を出る。
=
こういう旅の終わりは、どうしたって感傷的になる。
それを鎮めるために、私はよく帰り道を高速道路ではなく下道を選ぶ。
旅の余韻を、できるだけ長く感じていたいのかもしれない。
志摩市の先端から、名古屋まで下道で行くとナビの設定だと4時間ほど。
道中の休憩と渋滞を入れると、5時間ほどにはなるだろうか。
ゆっくり、帰ろうと思った。
行きのときに眺めていた風景が、逆巻きになって流れていく。
32号線を引き返して天の岩戸を通り、伊勢に入り内宮を横目に、北へ走る。
23号線に入ると、あとは名古屋まで北上するだけの一本道だ。
渋滞は、ほとんどなかった。
夜明け前の外宮から始まり、宇治橋で見た日の出、内宮、天の岩戸、伊雑宮…信号で停まるたびに、その風景が思い出される。
いい旅だったななと思う。
冬至の前のこの時期に、訪れることができてよかった。
松阪市を過ぎたあたりで、ふと気付くと見慣れない黒い車が前を走っていた。
気付けば、バックミラーにも黒塗りの車が映っていた。
葬儀のあと、斎場に向かっているのだろうか。
はっきりとした記憶はないが、17年前に私もあの車に乗っていたことを思い出す。
21歳か、22歳だったか。
私は、その黒塗りの車に乗る私の心情を慮った。
悲しみと絶望で、黒く塗りつぶされているようだった。
一つため息を吐き、私は窓を開けて空気を入れ替えた。
今朝、内宮への道で見た何かの動物の死骸を、私は思い出していた。
陽の際には、もっとも暗い陰があるのかもしれない。
そんなことを思う。
松阪市を過ぎ、23号線はだいぶ車の量が増えてきたようだった。
名古屋までは、まだ時間がかかりそうだった。