私がカウンセラーとして師事しております、根本裕幸師匠の新著「いい人すぎていつも損してる自分の守り方」(青春出版社、以下「本書」と記します)の書評を。
- 1.「いい人」ゆえの光と影
- 2.「いつも損している」と感じる人のパターン
- 3.なぜ、損をしてしまうのか? ~その奥底にある心理
- 4.いい人すぎる方のための処方箋とヒント
- 5.自分を生きることが、みんなを幸せにする
1.「いい人」ゆえの光と影
いい人「過ぎる」人に向けて書かれた本
本書は、そのタイトルの通り、「いい人過ぎて、いつも損している」と感じている人に向けて書かれた本です。
「いい人過ぎる人」
そう聞くと、ギクッとする方も、多いのではないでしょうか。
そうでなくても、「なんだか、自分だけ損しているなぁ」と感じることがあるという人は、こんな傾向があるのではないでしょうか。
どうやら「私ばかり損してる」と感じる方は、そういう不満を抱えてもめったなことでは言葉にせず、心の中に溜め込んでしまう方が多いみたいです。
すると、表面的には笑顔で振る舞っていても、心の中にはそんな不満や怒りがどんどん溜まっていきます。だから、人とかかわりを持ちたくなくなったり、感情が爆発しそうになったり、どうしていいかわからず途方に暮れたりしてしまうのでしょう。
本書 p.4
いかがでしょうか。
私も、そのような想いを、フルコンプリートで抱えてきましたので、読むのが痛いです笑
いい人が、自分の持つ「光」を見失わないために
「いい人」という単語は、とても両義的です。
「あの人は、いい人だよね」
という言葉には、褒め言葉であると同時に、「いい人だけれども…」というニュアンスが、どこか含まれます。
このことは、とても示唆的です。
「いい人」であることは、とても素晴らしい才能であるはずです。
人の気持ちが分かったり、謙虚であったり、優しくて思いやりがあったり、信頼されていたり、まじめで人望があったり…
その人がいると、チームワークがよくなったり、周りの人が笑顔になったり、場の空気がやさしくなったりするものです。
それが、「いい人」の持つ長所、才能、価値や魅力といった、光の部分です。
しかし、光があれば必ず影があるように、その長所は、その人にとって大きな悩みにタネになりえます。
いわば、「いい人」の影の部分です。
その影の部分に心をとらわれて、光の部分が出せなくなってしまうのは、本人にとっても、周りの人にとっても、この上なく不幸なことです。
本書は、「いい人過ぎる」くらい大きな光を持った方たちが、それを輝かせることができるように書かれた本です。
繰り返しになりますが、「いつも私ばかり損してる」と感じているのは、長所や価値をたくさん持っている方々です。だから、その長所や価値を”正しく”使うことができれば、損するどころか、たくさん得をすることができますし、その得を自分の大切な人たちと分かち合うこともできるのです。
本書 p.8
2.「いつも損している」と感じる人のパターン
ず本書では、そんな「いい人」が「いつも損している」と感じるパターンを、9つに分けて紹介されています。
- 真面目すぎて損してる
- いい人すぎて損してる
- 他人を喜ばせたいと思い過ぎて損してる
- 優秀すぎて損してる
といった、上で見た「いい人」の才能が、出過ぎているパターン。
さらには、
- 女性(男性)だから損してる
- 長女(長男)だから損してる
- 健康(不健康)で損してる
といった、その人固有の状況から損をするパターンが紹介されています。
分かりやすいのが、それぞれのパターンに、著者がブログやSNSで募集された実際の「いい人」たちの声が載っていることです。
家族には笑顔で、安心して毎日を過ごしてほしい。だから私はあまり家事が好きじゃないけどがんばっているのに、その思いが家族にはぜんぜん伝わってない。空しいし、損してるとよく思う。(Mさん)
本書 p.27
私は三人きょうだいの長女。第一子ということもあり、下が生まれれば母がとられ、さらに下が生まれれば子守を任される。同じことをしても妹や弟の方が怒られないし、かわいがられる。「お姉ちゃんだから損してる」といつも感じてました。(Rさん)
本書 p.38
「マルチで仕事ができる人」「仕事を断らない人」だと見られているようで、他部署、他施設への応援、転勤が人より格段に多いです。(Iさん)
本書 p.32
仕事、家庭、家族、友人、パートナーシップ…さまざまな場面で、「損をしている」と感じたパターンが、本書では列挙されています。
それは、「いい人」の苦しみや心の悩みの、生の声ですから、とても身につまされます。
誰もが、思い当たるパターンがあるのではないでしょうか。
3.なぜ、損をしてしまうのか? ~その奥底にある心理
「いい人すぎて損をする」問題の回答集
さて、そうした「いい人」が損をするパターンを見た上で、本書は「なぜそうなるのか?」について、心理的な解説をしていきます。
損をする事象面を、それを招いてしまう心の状態(マインド)から見ていくわけです。
それは、「損をしている人/得をしている人」、「いい人/悪い人」という見方をいったん外して、「どうして、それが起きたのだろう?」、「なぜ、その人にそれが起きる必要があったのだろう?」と見る視点です。
いわば、「いい人すぎて損をする」問題の、回答集といえるでしょうか。
自分のことは、なかなか見えないものですが、こうして実例を見ていくと、「あ、自分の心もこんな状態だったのかも」と気づくことができます。
私もご多分に漏れず、ほとんどが当てはまります笑
その中でも、私が「あぁ、それは気づいてなかった」と感じた点と、「うわぁ、知ってたけど、まだまだあるなぁ」と感じた点をご紹介します。
「いい人でいたい=嫌われたくない」問題
これは、永遠のテーマですねぇ、ほんと笑
嫌われるのが怖くて、いい人をやめられない。
ええ、分かっちゃいるんですけど。
嫌われたくないから、自分を犠牲にして、いい人でいる。
それが度を過ぎると、心も身体も疲れて切ってしまう。
ありますよねぇ…ほんと(遠い目)
いい人でいることがクセになっている人には、「人に悪く思われたくない」「人に嫌われたくない」という思いが心の底にしっかり根づいていることがあり、それゆえに自己犠牲的に振る舞ってしまうことも少なくないのです。
本書 p.68
そういう思いがあると、自分がしたことで相手が感謝してくれても素直にそれを受け取れません。「嫌われないために」行動しているので、「嫌われなくてホッとする」というのが正直なところだと思うのです。
本書 p.69
頼られるのに、頼ると上手くいかない問題
「いい人」の中には、人に頼ることが苦手な人も多いかと思います。
なぜ、上手く人に頼れないのかについての、心理的な見方です。
AさんとBさんがいたとして、
・Aさん⇒対等な関係だと思っている
・Bさん⇒Aさんの方が上だと思っている
というように、二人の関係性の認識にズレがあると、どこかで齟齬が生じます。
Bさんは、Aさんの方が上だと思っているので、常にAさんを頼り、助言を求めたりします。
けれど、あるときAさんが困って、Bさんに相談したとしても、Bさんは「私ごときが」とスルーしたり、真摯に聞いてもらえなかったりします。
当然、Aさんは「いつも聞いてあげているのに、なんで私の時は聞いてくれないの…」とショックを受けるわけです。
このような事象に対しての、本書での視点が、とても素敵です。
このAさんとBさんのすれ違いは、お互いが認識している相手との関係性のズレから生じています。AさんはBさんを「同期だから対等な関係」と思っているのに対して、BさんはAさんを「すごい人だ」と見上げてしまっています。
もちろん、ここではBさんの無価値観や自信のなさ、自己肯定感の低さが問題になるのですが、Aさんにとってはそのズレに気づいていないことが問題なのです。
本書 p.65,66(太字部本文ママ)
Bさんだけに原因があるわけではなく、Aさんにも原因がある。
どちらが悪いという見方ではなく、「お互いが望んでそうしている」という点から見ると、視野がとても広がります。
それは、「あぁ、ずっとAさんの立場で考えてたけど、時にはBさんの立場になっていることもあるなぁ」と気づいたりすることができます。
こうした「見方を変える」ことを、「癒し」と呼んだりします。
そういった意味では、本書の第2章は「癒しの章」といえるかもしれません。
4.いい人すぎる方のための処方箋とヒント
さて、「どうしてそうなってしまうのか?」を見てきた上で、本書はそれに対処するための方法とヒントを提示してくれます。
気分を下げる”モヤモヤ”から自分を守る方法が18個、そして”いつもごきげん”でいるためのヒントが10個。
これだけの処方箋があれば、どんな人にも「これならやれそう」と、自分に合ったものが見つかるのではないでしょうか。
「そのままの性格を受け入れる」
「それが自分なんだから、しょうがない」と思ってみてください。
それだけで肩の力が抜けて、楽になれる方がたくさんいます。そこには自分を責める要素がないから、心は安心できる。つまり自己肯定の言葉なのです。
本書 p.104
「いい人」でいることをやめる
まずは極悪人になるつもりで「不義理・非人情」という言葉をブツブツとつぶやいてみましょう。ちょっと罪悪感のようなものがうずくのであれば、あなたはホントにいい人なんだろうと思います。
「これは自分を守るため、自分がしんどい思いをしないため」と言い聞かせながら、その言葉を繰り返してみてください。すると「No」が言えるようになったり、必要以上に物事を抱え込んだりしなくなっていることに気づくでしょう。
本書 p.106
「自分から負けを認める」
競争心があるとWin-Winの関係を目指すことができません。競争心は関係を壊してしまうのです。だとしたら、まず自分が競争心を手放す必要があります。
競争心を手放すために私がおすすめしているのは、「負けを認める」という方法。「あれ、勝ち負けじゃないと言いながら『負けを認める』だなんて、矛盾してませんか?」と感じるかもしれません。
この場合の負けを認めるとは、「競争の舞台に立たない」と宣言することです。つまり、戦わないことをあらかじめ選択するのです。
本書 p.173
このあたりの引き出しの豊富さは、「提案の鬼」たる著者の本領だからなのでしょう。
心理的な解説と、具体的な行動の提案とが、第3章、第4章で多くされています。
私も、これまで取り組んだことがある内容も、多々あります。
それで、とても楽になったものもありますし、まだまだ道半ばで、四苦八苦しながら取り組んでいる内容もあります。
特に、「負けを認める」とかはねぇ…永遠のテーマですよね、ほんと笑
それはさておき、ぜひこの豊富なワークは、本書を手に取ってみていただければと思います。
5.自分を生きることが、みんなを幸せにする
「どちらか」ではなく、「一緒に」
私たちはどこかで、自分と相手の関係が「ゼロ・サムゲーム」であるかのような、思い込みがあるのかもしれません。
すなわち、相手を喜ばせるためには、自分が我慢しないといけない、というような。
本書で書かれているような「いい人」ほど、そうした思い込みがあるのかもしれません。
相手に喜びを与えたい、笑顔にしたい、という思いが強ければ強いほど、自分を犠牲にもするし、我慢もするし、損な役回りを引き受けもする。
けれども、それは真実ではありません。
本来、自分の幸せと相手の幸せは、相乗効果であるはずです。
あなたが笑顔でいると、私はうれしい。
もしそうならば、
私が笑顔ならば、あなたもまたうれしい。
はずです。
けれども、周りを気にしたり、嫌われることを怖れるうちに、私たちはそれを忘れてしまうのかもしれません。
本書は、そんな簡単な真実を思い出させてくれます。
みんなが得する幸せな世界を
それが分かっていても、なかなか実際に行動するのは、難しいものです。
けれども、一つの希望になるのは、著者自身も、以前はそうだった、ということでしょうか。
実は私も「なんで自分ばっかり…」と思う瞬間をたくさん抱えていた時代がありました。仕事でもプライベートでも、よかれと思ってしたことが感謝されなかったり、めんどうな役割を押しつけられたように感じたり、自分ばかりが大変な作業を担当しているように感じたり、なんか理不尽だなぁと思ったりすることがたくさんあったのです。
本書 p.201
そうした時代を、乗り越えることができたのは、やはり自分を生きるということがカギになるようです。
「人にどう思われてもいいや」と思えるようになってからは、ずいぶん楽になったのです。どうしてそう思えるようになったのかというと、「自分が本当にやりたいことだけをやる!」と決め、実践してからです。
本書 p.202
自分を生きることが、周りの人を幸せにする。
そうありたいものです。
そして最後の一文が、本書に込められた著者の本懐ではないかと私は思うのです。
みんなが得する幸せな世界をつくっていきたいと思います。
本書 p.205
自分を犠牲にするわけでもなく。
誰かを負かしたり、悪者にしたり、加害者にしたりするわけでもなく。
いっしょに、みんなが得する世界をつくる。
それは、「いい人過ぎる」といわれる人こそ、実現できる世界なのでしょう。
その才能の、影の部分に心をとらわれることなく。
その光で、周りの人を照らし、輝かせることができる。
「いい人過ぎる」人は、そんなことができる人なんだよ、と本書は教えてくれるようです。
そのことが、一人でも多くの「いい人過ぎる」方に届くことを、願ってやみません。
〇著者のブログでのご紹介はこちら。