20年ぶりくらいに、ナゴヤドームで中日ドラゴンズの試合を観戦した。
中日の本拠地がナゴヤ球場からナゴヤドームに移転したのが、1997年。
私が高校生のころだった。
移転してから何度か足を運んだが、高校を卒業して実家を出てからはあまり訪れる機会がなかったし、勤め始めてからは訪れた記憶がない。ワーカホリックだったこともあるのだろうか。
それが不思議なもので、20年ぶり以上にナゴヤ球場を再訪してから、野球関連の話しにいろいろ恵まれて、訪れることができた。
試合は、セ・パ交流戦の本拠地開幕戦、楽天ゴールデンイーグルスを迎えての一戦だった。
地下鉄の「ナゴヤドーム前矢田」駅から、ドームまでの道を歩く。
せっかくの機会なので、試合開始1時間前から胸躍らせて訪れることにした。
「前進、あるのみ」
その通り、折しも前日までドラゴンズは5連敗中。
4月に久々の貯金を作ったのも今は昔、振り向けば最下位のヤクルトが迫っている。
されど後ろを振り向かず、ただ目指すは今日の勝利のみ。
久しぶりに見るドームのグラウンドは、明るく広い夢空間だった。
青と緑を見ると、テンションが上がるのは競馬場と似ているのかもしれない。
セ・パ交流戦の本拠地開幕にともない、セレモニーが。
ベンチ入りの各選手が、一人ずつコールされて整列、花束贈呈。
さらに国歌吹奏。
国歌が入ると、一気に緊張感が高まるのは、ダービーに…(以下略)
演奏は、地元の東邦高校マーチングバンド部。
彼ら彼女らの応援に支えられた野球部が、平成最初と最後の、春のセンバツ甲子園を制したのは記憶に新しい。
先発は柳裕也投手。
このホームチームの先発が、まっさらなマウンドに向かう時間が大好きだ。
野球の美学が凝縮されたような瞬間。
流れるようなピッチングフォームで、楽天打線に立ち向かう柳投手。
その右腕に連敗ストップは託された。
楽天打線で最も怖いバッターの一人、浅村栄斗選手。
豪快なフルスイングの音が聞こえるようだ。
この日も3安打猛打賞、2ベース2本と大当たりだった。
竜の若き4番、高橋周平選手。
怪我人続出で苦しい中、覚醒した打棒は数少ないチームの希望だ。
しかし、この日ひときわ大きな歓声を浴びたのは、大ベテラン・藤井淳志選手。
先般ナゴヤ球場に足を運んだ際は二軍戦に出場していたが、この日一軍登録され、即2番レフトで先発出場。
その鬱憤を晴らすかのように、第2打席にレフトスタンドに3ランを叩き込んだ。
なかなか打てない試合が続く中日打線だが、この日は大爆発。
7回に飛び出した亀澤恭平選手の二人のランナーを返す3ベースヒットで、場内は大歓声。
個人的には、ホームランよりも3ベースヒットに美学を感じる。
塁上のランナーを全て返し、さらに打った本人は塁上に残る。
うん、美しい。
前の回に2点タイムリーヒットを打ったダヤン・ビシエド選手が、ライトスタンドからのコールに応える。
さぞかし、気持ちいいんだろうなぁ…男なら必ず一度は憧れるであろう場面だ。
恒例の8回裏のドアラのバック転チャレンジ。
通常のバック転ではなくて、ひねりを加えた難易度の高いバック転。
ドラチアの間を疾走し…
いよっと…
うりゃ!
この日は見事成功!すげえ。
ドラチアにドヤるドアラ。
これも男なら憧れる場面だ。
試合は序盤から得点を重ねたドラゴンズが、終始楽天を圧倒。
大量得点に守られて、最後は田島慎二投手が締める。
5連敗ストップ、久々の勝利の美酒。
連敗も葛藤も失敗も、この勝利の味が全てを拭い去ってくれる。
気づけが今シーズン最多得点での勝利。
柳投手は7回1失点、要所を締める見事なピッチング。
まるで盆と正月が一度に来てしまったかのような、試合内容の日に観戦することができた。
いまは勝利の後にはこんな光と音の演出が。
レインボーに光る照明を眺めながら、勝利の余韻に浸る。
ヒーローインタビューが、昔から私は大好きだった。
今日は7回1失点の見事なピッチングの柳投手と、リードで彼を支えて2安打2打点の大活躍の武山真吾捕手。
そして誰あろう、3ランを叩き込んだ、帰ってきた藤井選手。
2軍で結果を出していながら、なかなか1軍に召集がかからない苦しいシーズン。
オーロラビジョンに映し出される、日に焼けた藤井選手の顔が、ナゴヤ球場で重ねた時間を物語っていた。
怪我人続出の中で戦うチームを、どのように見ていたのだろう。
「無駄な時間はなくて。大事な時間を過ごさせてもらいました」
38歳。
大ベテランの語る「時間」という言葉に、思わず涙腺が緩む。
この一試合に、生きざまを魅せる。
これぞ、プロフェッショナル。
試合終了後も、宴が続くライトスタンド。
幼い頃の私も、勝った試合はライトスタンドでずっとその日の出場メンバーの応援歌を、そして「燃えよドラゴンズ」を熱唱し、喉を潰した。
大差で負けた試合も、帰りたそうな父親の袖を引き、ゲームセットのコールがされるまでずっと居残った。
祭りの後は、いつも寂しい。
楽しかった時間の反動のような寂しさは、いつもたまらなく私の胸を締め付ける。
ようやく地面に貼り付いたような両足を剥がしながら、帰宅の途につく。
ナゴヤ球場で声を枯らしていた、小さな私も、ニッコリと笑っていたようだ。
また一つ、童心を取り戻すことができたようだ。
バイバイ、ドラゴンズ。
バイバイ、ナゴヤドーム。
また来るよ。