大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。死別や失恋、挫折といった喪失感から、つながりと安心感を取り戻すお手伝いをしております。

追憶の、黄・黒縦縞・袖青一本輪。 ~2022年 桜花賞 回顧

世の中に たえて桜のなかりせば
春の心は のどけからまし

千年の昔に生きた歌人、在原業平をして、春の桜は人の心を惑わすものだった。

春の萌芽を感じると、桜はいつ咲くだろうと気になり。

開花の便りが届くと、いつ花見に行こうかと、気もそぞろになり。

その散りゆくさまは、この胸に宿る何かを、呼び起こす。

桜は、いつも春の人の心を惑わす。

 

年々早くなる、その開花の報を聞くたびに。

その日まで、仁川の桜は散らずにいてくれるだろうかと、私は思う。

桜花賞。

桜の花の下、うら若き3歳牝馬たちが、クラシックの栄光に向けて走る。

私の大好きな、美しいレースだ。

競馬を観始めたころのあの日、テレビの向こうの仁川にも、桜が咲いていた。

サラブレッドが走る。

その美しさと儚さと、散りゆく桜の花は、どこか相似に見える。

桜が咲き、散りゆくさまを眺めると、心が千々に乱れるように。

桜花賞がやってくると、どうしたって心は戸惑いの中に迷い込む。

それは、戻らないあの日の私を、また見つめることになるからだろうか。

 

2022年の今年も、桜が咲く。

桜花賞が、やってくる。

テレビの画面には、散り際の阪神競馬場の桜が、映し出されていた。

もうあと、数日もすれば、若葉の季節になるのだろうか。

画面越しにも伝わる、麗らかな春。

クラシックの開幕を告げるファンファーレが鳴り響く。

ゲートが開く。

ライラックが若干出遅れたが、その他はほぼ五分のスタート。

外枠に1,2番人気が入った、今年の桜花賞。

ゲートに難のあるナミュールも、昨年末のように大きくは出遅れることはなかった。

じわりとした先行争いから、ハナを切ったのは好枠からカフジテトラゴン。

番手に武豊騎手のウォーターナビレラがつけ、ラブリイユアアイズ、クロスマジェスティあたりも先団へ。

その他は、明確に先手を主張する馬はおらず、枠なりに隊列が決まっていく。

2歳女王・サークルオブライフと、前哨戦のGⅡチューリップ賞を強い勝ち方で制したナミュールは、ともに後方から。

 

馬群はひと固まりとなって、3コーナーを回っていく。

さらに各馬が前との差を詰めていきながら、直線を迎える。

残り200m、先頭のカフジテトラゴンを、ナムラクレアが交わしていく。

その外から、満を持して伸びてくるウォーターナビレラ。

8枠ピンク帽の人気馬2頭は、ようやく外から伸びてくるが、さすがに厳しそうだ。

ウォーターナビレラが、ようやくナムラクレアを振り切った。

しかし、青い帽子が飛んできた。

スターズオンアース

ウォーターナビレラ、スターズオンアース。

2頭が鼻面を合わせたところが、ゴール板だった。

 

写真判定の末、スターズオンアースが差し切っていた。

重賞初勝利が、GⅠ制覇となった。

川田将雅騎手は、2014年のハープスター以来となる、桜花賞2勝目。

道中、中団待機から、直線窮屈になりながらも、前が空くまで脚を溜めて仕掛ける、円熟の騎乗。

前日には落馬のアクシデントがありながら、その影響を感じさせない、見事な騎乗だった。

父・ドゥラメンテは、昨年の菊花賞のタイトルホルダーに続いての、GⅠ、クラシック2勝目と、大舞台での勝負強さを見せつけた。

 

ハナ差の2着に敗れた、ウォーターナビレラ。

実質的にレースの主導権を握っていたのは、この馬と武豊騎手だった。

有力馬2頭が外枠に入ったことで、枠の影響がそのままに出る展開に持ち込むあたり、まさに老獪といえる騎乗。

もうこれ以上、できることはないと思わせるような、そんな騎乗だったが、ハナ差だけ足りなかった。

しかし、昭和、平成、令和の桜花賞を乗ってきた、レジェンドの騎乗を、堪能させていただいた。

 

競馬を観始めた、あの頃。

黄・黒縦縞・袖青一本輪の勝負服を纏った名馬たちが、駆けていた。

ジェニュイン。

バブルガムフェロー。

ダンスインザダーク。

いくつもの走りが、頭を駆け巡る。

社台レースホースは、2017年のオークス・ソウルスターリング以来となる、GⅠ制覇となった。

 

2022年、桜花賞。

川田将雅騎手の手綱に導かれ、差し切ったスターズオンアース。

黄・黒縦縞・袖青一本輪の勝負服は、どこか追憶の中にあった。

また今年も、桜が咲く。桜が、散る。

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