世の中に たえて桜の なかりせば
春の心は のどけからまし
そう詠ったのは在原業平でしたが、実に桜の花というのは、この時期の人の心をせわしなくさせるものです。
咲いても、咲かなくても。
春の人の心は、その小さな花に囚われてしまうようです。
今年の桜は平年に比べて開花が遅いようで、3月も終わりの頃になって、ようやく東京でも開花宣言が出されました。
この数年、開花が早くなっているようで、今年も暖冬だったはずですが、自然のことは分からないものですね。
競馬好きにとっては、桜花賞の頃には咲いていてほしいな、といつも思うのですが、今年は大丈夫なようです笑
七十二侯でも、すでに「桜始開(さくらはじめてひらく)」を過ぎて、「雷乃発声(かみなりすなわちこえをはっす)」に入りました。
季節の変わり目に雨の日が多くなり、雷の声を聞くようになる時期ですね。
この大気の不安定さもまた、春らしさであり、そのようにして本格的な春は訪れるようです。
「不安定さ」というのが、春の持つ性質の一つのようです。
それは、大気や天候もそうですし、人の心もまた、不安定になることが多いのが、この季節だったりします。
入学、卒業、引っ越しといった、変化が多い時期であるのも、その一因なのでしょう。
それとともに、やはり気温が上がっていく変化もまた、そうした不安定さをもたらすように感じます。
なんというか、同じような気温の秋よりも、春の方がそうした不安定さを感じるのは、上がっていく気温に、身体がついていかないことも、一つの要因なのでしょうか。
実際に、私の住んでいる名古屋でも、今週から気温が上がってきました。
熱くなったお湯を、放っておくと冷めていくのは自然ですが、お湯を沸かすというのは、実に膨大なエネルギーを必要とします。
冬の厳しい寒さを考えると、暖かくなっていくことはありがたいことですが、それに身体を慣らしてくのは、私たちが思っているよりも、大変なことなのかもしれません。
無理せず、身体の声をよく聞きながら。
冬の寒さを耐えてきた身体を、いたわりながら。
この時期は、そんな意識をちょっと持ってみることが、必要なのかもしれません。
そんなことを想いながら、近所の川沿いを歩いていると、咲き始めた桜が目に入りました。
一年ぶりに出会う、その淡い色。
歳を重ねるほどに、その色が目に染み入るようです。
3月も終わり、もうすぐ4月。
年度替わりや、新しい生活など、慌ただしい方も多いかと思います。
あるいは、心が何か不安だったり、落ち着かなかったりする方も、いらっしゃるかもしれません。
それもまた、春のしわざ。
そんな風に考えて、自分の身体と心を、いたわってあげてください。
ゆるくゆるく、やさしく、あまく。
そう、春の空の下で咲く桜の、あの淡い花の色のように。