「投影」の心理の3つのパターンと、「投影」を使った人間関係へのアプローチについて、お伝えします。
自分の外側に見えるものは、自分の内面の状態を教えてくれるヒントのようです。
名著「傷つくならば、それは「愛」ではない」(チャック・スペザーノ博士:著、大空夢湧子:訳、VOICE:出版)の一節から。
1.どんな対立も、結局は自分自身と闘っているだけ
あなたの人間関係で起こることのすべては、あなたの心を反映しています。
あなたが内面的な葛藤を癒せたのなら、あなたとパートナーとの間の葛藤もまた癒されることでしょう。
パートナーと争うふりをして、自分自身と闘うのはやめましょう。
パートナーが見せてくれているあなたの一部を、すすんで受け入れましょう。
どんな対立に出会っても、そこで受容していくことによって、前に進むための新しい自信がわいてくるのです。
おたがいにとって、かならず対立よりもすばらしいものが待っています。
「傷つくならば、それは「愛」ではない」 p.337
2.「投影」の心理
今日のテーマは「投影」でしょうか。
心理学の基本中の基本ともいわれる「投影」、その心理について見ていきます。
心のなかの風景を、外側に映し出す
「投影」とは文字通り、自分の感情を人や物に映し出すことを指します。
あなたの人間関係で起こることのすべては、あなたの心を反映しています。
この部分が、端的に「投影」の心理を表していますよね。
私の周りの人間関係に起こることは、すべて私の心のなかを反映されたものである、と。
この「投影」には、大きく分けて3つのパターンがあります。
一つ目は、自分の感情を人や物に投影するパターン。
これは、分かりやすいですよね。
同じ夕暮れを見ても、失恋したばかりの人と、明日初めてのデートの人とは、その夕暮れから受ける印象がまったく違います。
私たちは同じものを見ているように見えて、実は自分自身の感情というフィルターを通して、まったく違うように世界を見ています。
二つ目は、過去に出会った人を、人や物に投影するパターン。
たとえば、小学校のとき、声が大きくて苦手な先生がいたとします。
それがのちに、大きな声で話す人が現れたとき、私たちはその人に先生を投影して「なんか苦手だな」と感じたりします。
それは昔の先生である場合もあれば、大好きだった友人の場合もあれば、家族の誰かの場合もあるのでしょう。
だから、そもそもの原因となった人との葛藤を癒すと、いまの似た人との関係が改善されたりもします。
三つ目は、自分の価値観や考えを人や物に投影するパターン。
これが、3つのパターンの中で、最も気づきにくいパターンかもしれません。
価値感や考えというのは、ある意味で最も強力なフィルターです。
「親とは」「お金とは」「男性とは」「仕事とは」といった、自分の持っている価値観は、自分にとってあまりに当たり前であるがゆえに、気づきにくいものです。
それゆえに、カウンセリングでは、こうした無意識の価値観がテーマとしてよく出てきます。
「私がガマンすることで、みんなが幸せでいられる」
「私が全力で愛すると、相手は迷惑する」
「私には、そんなに愛される価値なんてない」
…などなど、いろんな価値感がありますが、そうしたものを外側に映し出すと、どうしても生きづらい世界がまわりに現れてしまうものです。
このように、「投影」には3つのパターンがあります。
そのいずれのパターンも、「私たちの心の中の風景を、外側の世界に映し出す」というのが、基本になります。
「投影」を取り戻す
さて、こうした「投影」に気づくプロセスを、「投影を取り戻す」と呼びます。
言い換えると、外側の世界を通じて、自分自身の内面を知るプロセス、ともいえます。
たとえば、ある朝、電車に乗ろうと駅に向かいます。
スマホを準備して、改札に歩いていきます。
しかし、自分の前にいた人が、改札にパスケースをかざすと、赤いランプが点灯します。
定期が切れていたのか、それとも残高不足か。
その前の人は、あたふたと慌てています。
両隣はするすると進んでいくのに、歩みを止められたあなたは、イライラと怒りを感じます。
「なんだよ、早くしろよ」と、悪態の一つでもつきたくなります。
しかしここであなたは、はたと気づくわけです。
「あ、わたし、怒っている」
そうなんです。
前の人があたふたして待たされたから、怒っているんじゃないんです。
そもそも自分の中に「怒り」があって、改札機で往生している人は、その「怒り」のトリガーを引いたにすぎないんです。
だって、めちゃくちゃ倍率の高い大好きなアーティストのコンサートに当選して、すごくそのコンサートに満たされた帰り道で、改札が混雑して待たされたとしたら、どうでしょうか。
「あぁ、今日のコンサート、ほんとステキだったな…」とうっとりして、待たされていることにすら、気づかないかもしれません。
「あ、そうか、わたし、怒っているんだ」
私たちの思考が、その「怒り」を認知します。
すると、思考と感情がつながり、私たちは「怒り」と向き合うことができるようになります。
これが、「投影を取り戻す」という心の動きです。
これは、先に挙げた3つのパターンのうちの一つ目の例ですが、二つ目、三つ目でも同じです。
「なんかこの人、イヤな感じ」という人が周りに現れたとして。
何がイヤなのか考えてみると、どうも声が大きいのが、すごく不快に感じることに気づきます。
すると、昔の声が大きくてイヤだった先生を思い出すわけです。
「あの先生はイヤだったな。けれど、この人はあの先生とは違う」
投影を取り戻すと、いままで持っていたフィルターを外して、その人そのものに近づくことができるようになります。
私たちは、知らず知らずのうちに、「投影」をして外側の世界を見てしまいます。
けれども、「投影を取り戻す」というはたらきもあることは、覚えておきたいものです。
3.あなたはわたし、わたしはあなた。
「投影」を使った人間関係へのアプローチ
さて、ここまで「投影」の心理を見てくると、今日の引用文にあるような、人間関係の葛藤へのアプローチが見えてきます。
誰かとの間に、葛藤や争いがあるとしたら。
その人にアプローチするのは、あまり得策ではありません。
目を向けるべきは、自分の内面になります。
そのために、まずは相手と線を引くことが一歩目になります。
相手の感情や問題と、自分のそれを、明確に区別すること。
その上で、自分の中で葛藤したり争っている部分は、どこなのか。
そこに、目を向けるわけです。
もちろんそれは、自分一人では気づけない部分かもしれません。
「自分の常識は、他人の非常識」といわれるように、いろんな人と話しをすることが、それに気づく近道の一つです。
そして、その自分自身の中の葛藤や争いを癒すことができると、それが周りに「投影」され、平穏を感じることができるようになるのです。
外側に見える世界から、自分の内面の状態を知り、そこに向き合うことが、めぐりめぐって人間関係にもよい影響をおよぼす。
「投影」を使った、人間関係へのアプローチの考え方です。
あなたはわたし、わたしはあなた
自分の周りの世界に見る葛藤や争い。
その葛藤や争いそのものを何とかしようとすると、あまりうまくいきません。
けれども、それを自分の内面の状態に気づくための資料にできると、世界はとても豊かなものになります。
かつて、私が心理学を学んだとき。
心理学を、周りの人に向けるのではなく、自分自身の内面と向き合うために使うと、ものすごく世界は豊かになる、と教えられたことを思い出します。
それは、本当なんですよね。
どうしても他人が気になるし、他人の心情を知るために、心理学を使おうとしてしまう。
私も、その罠にはよく嵌ってきました。
けれども、まずは他人と線を引くこと。
そして、線を引いた内側の領域で、自分と向き合うために、心理学の力を借りる。
そうして自分を癒していくと、それは波が広がっていくように、外側の領域にも影響をおよぼしていく。
そんなプロセスを踏んでいくと、ふと。
「あなたはわたし、わたしはあなた」
そんな言葉が浮かんできます。
不思議なのですけれどね。
私たちは、つながっているように見えて、離れ離れです。
けれども、離れ離れのように見えて、つながっているのです。
「投影」は、いろんなことを教えてくれるようです。
今日は、「投影」の心理についてお伝えしました。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
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