ゆっくりと、走る。
淡々と、粛々と。
自分が思っているよりも、うんと、ゆっくりと。
景色が流れるままに任せる。
陽が沈んでいく。
世界が黄金色に輝き、やがて色を失っていく。
ゆっくりと、走る。
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瞑想とランニングは似ている。
それは、ただ流れていくに任せるから、だろうか。
紫陽花が見え、やがて消えていく。
悲しみが訪れ、やがて消え去っていく。
新緑の木々がやってくる、そして去っていく。
やらねばならぬことが浮かび、そして去っていく。
遠くに陽が輝き、そして沈んでいく。
鬱々とした気分になり、そして流れていく。
それらは、ひとりでに流れていく。
瞑想も、ランニングも、どちらもそこに留まらない。
ただ、流れていくことを許す。
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自分が走っているのか、それとも景色が流れているのか。
ときどき、分からなくなる。
確かなことは、いつもより速い心音と深い呼吸、そして熱を帯びた体温。
その身体感覚が、わたしをここに留める。
同時に、それらは一瞬たりとも留まらない。
常に、流れていく。
生が流れていくことと、同じように。
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流れていくものと、闘ってはならない。
流れていくものと、比べてはならない。
流れていくものに、惚れてはならない。
流れていくものを、無くそうとしてはならない。
それは、ただ流れていくだけなのだ。
ひとりでに流れていく。
景色は、情感は、生は、夢は、現実は、ひとりでに流れていく。
それを流れるままに。
ゆっくりと、走る。
ゆっくりと、景色が流れていく。
ゆっくりと、わたしは流れていく。