大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。死別や失恋、挫折といった喪失感から、つながりと安心感を取り戻すお手伝いをしております。

サイドミラーに映る桜を眺めながら。

いつの間に、こんなに暖かくなったのだろう。
少し夏を想起させる車内の熱気に、春の訪れどころか、初夏の気配すら感じる。

季節は留まらない。留まっては、くれない。

ひらひらと、足元を黄色い蝶が舞った。

これだけ暖かくなると、いろんな生きものがその陽気に誘われてくるのだろう。

そういえば、先日、息子が越冬させようとしていたクワガタ2匹のうち、1匹が出てきた。
乾燥しすぎるとよくないため、霧吹きで湿気を与えようと、息子と昆虫ケースの蓋を開けたら、大きなクワをもたげて怒っていた。

いるはずのないものがいると、驚くものだ。

「おわ、もう出てきてるじゃん!」
と、腰を抜かしそうになった私を横目に、息子はニタニタとしていた。

越冬すると知識で知ってはいたものの、それでも実際にその姿を見ると、驚いてしまう。
いったい、どうやって冬の間を過ごしていたのか、と。

冬の間の長い眠りから覚めて、また活動し始めたクワガタを見て、生命の不思議さと神秘を想う。

そんな先日の出来事を思い出しながら、車で市内を走る。

そこかしこで、淡いピンクの色が、咲き誇っているのを見かける。

もう、いまが盛りだろうか。

はらはらと、花びらが舞った。

その淡い色が惜しくて、サイドミラーを流れていくその色を、ずっと眺めていた。

桜が、流れていく。
季節が、流れていく。
留めることも、留まることもしないで。
誇ることも、しないで。

桜は、ただそこにあった。

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