いつの間に、こんなに暖かくなったのだろう。
少し夏を想起させる車内の熱気に、春の訪れどころか、初夏の気配すら感じる。
季節は留まらない。留まっては、くれない。
ひらひらと、足元を黄色い蝶が舞った。
これだけ暖かくなると、いろんな生きものがその陽気に誘われてくるのだろう。
そういえば、先日、息子が越冬させようとしていたクワガタ2匹のうち、1匹が出てきた。
乾燥しすぎるとよくないため、霧吹きで湿気を与えようと、息子と昆虫ケースの蓋を開けたら、大きなクワをもたげて怒っていた。
いるはずのないものがいると、驚くものだ。
「おわ、もう出てきてるじゃん!」
と、腰を抜かしそうになった私を横目に、息子はニタニタとしていた。
越冬すると知識で知ってはいたものの、それでも実際にその姿を見ると、驚いてしまう。
いったい、どうやって冬の間を過ごしていたのか、と。
冬の間の長い眠りから覚めて、また活動し始めたクワガタを見て、生命の不思議さと神秘を想う。
そんな先日の出来事を思い出しながら、車で市内を走る。
そこかしこで、淡いピンクの色が、咲き誇っているのを見かける。
もう、いまが盛りだろうか。
はらはらと、花びらが舞った。
その淡い色が惜しくて、サイドミラーを流れていくその色を、ずっと眺めていた。
桜が、流れていく。
季節が、流れていく。
留めることも、留まることもしないで。
誇ることも、しないで。
桜は、ただそこにあった。