大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。死別や失恋、挫折といった喪失感から、つながりと安心感を取り戻すお手伝いをしております。

紡がれて、いま。

その日は墓参りに行く予定にしていた。
息子と娘はついてくるとは言っていたが、当日になると「遠い、めんどくさい」とぐずぐずと言い出す。

私は朝から少し感傷的になっていたのだろう。
「だったら最初からそう言え。予定決めた後でごちゃごちゃ言うな」と怒ってしまう。

出がけから険悪なムード。

息子ぐらいの年だったら、墓参りよりも楽しい遊びをしていたいだろう。

そりゃ、そうだ。

私自身は、どうだったのだろう。
そんなことを思い返しながらの、行きの道中だった。

思っていたよりも、道は混んでいた。
いつもの感じだと、もう少し空いているような気もするのだが、感染症対策により例年とは少し違う年末年始なのかもしれない。

f:id:kappou_oosaki:20201230093241j:plain

少し時間はかかったが、正月用の花を買って目的地に着いた。

子どもの頃に、よく訪れた公園を脇に見ながら。
いろんな思い出が去来する。

f:id:kappou_oosaki:20201230093230j:plain

ようやく着いたお寺の境内を走り回る息子と娘。
今年は、除夜の鐘を撞かないところも多いと聞く。

少し風が冷たかったが、それでも師走にしては暖かいような気がする。

ブツブツと言っていた息子も、来てしまえば真面目に墓を磨いてくれた。

「なあなあ、おとうのおとうも、ここで生まれたの?」

「ああ、そうだよ。おとうのおかあも、そうだよ」

「ふーん。そのおとうは?」

「おとうのおとうのおとう…ややこしいな、おとうのおじい、きみからするとひいおじいになるのか…そのおじいも、ここで生まれたと聞いたような気がするな。ここの近くで、町工場をやってた」

「こうば?」

「ああ、鉄工所。たしか、航空機か何かの精密部品をつくってたって聞いたな。下町ロケット、そのままだな」

「したまちロケット?」

「ああ、飛行機の部品を加工してたそうだ。腕はよかったらしい。聞いた話だから、分からんけど」

「ふーん。おかあは?」

「おとうのおばあか?おばあは、奈良県の生まれだって聞いたな」

「なら?遠いなぁ。なんでここに来たの?」

「なんでだろう?聞いたことなかったな。あの時代のことだから、戦争もあっただろうしな」

「せんそう?なにじだいなの?」

「おとうのおじいは大正の生まれだったかな…?もう少しさかのぼると、すぐに明治、江戸時代だな」

「えど?ほんとに?」

「あぁ、そう考えると、すごいよな…そんで、おとうのおじいのおじさんか、親類の誰かが、日露戦争で亡くなったって聞いた」

「ふーん」

「そのうちの一人でもいなかったりしたら、おとうもきみも、ここにいないわけだからなぁ。そう考えると、すごいよな」

ふと見ると、息子はすでに聞いておらず、娘が見つけたミミズを気持ち悪がって遊んでいた。

私は、誰に話していたのだろう。
いや、息子は私に、その最後の言葉を言わせたかったのだろう。
私が、私自身に。

f:id:kappou_oosaki:20201230093221j:plain

紡がれて、いま。

見上げれば、帯のような雲が広がっていた。

「うわ、動いた、キモッ」

冬にしては、大きなサイズのミミズと戯れている息子と娘。

「そろそろロウソクと線香に火をつけようか」

私は仏花を飾りながら、そう口にした。

正月用の松の枝が、風に揺れていた。