「はぁ…なんだかなぁ…」
「どうした、買ってきたビックリマンチョコを開けてみたら、全部ダブりだったみたいな顔して」
「なんですか、それ」
「いや、昔、ビックリマンチョコってのがあってな…」
「知ってますよ、今でもなんか別のキャラクターでコンビニで売ってるじゃないですか」
「あぁ、それをな、少ない小遣いを握りしめて駄菓子屋に買いに行くんだよ。そんでな、ワクワクして自転車ぶっ飛ばして、家に帰るんだよ」
「…」
「そんで、一人開封の儀をするわけだ。たくさん買った分、何か背徳感のようなものと同時にさ」
「…」
「けれど、開けれど開けれど、ダブり、ダブり、ダブり」
「何ですか、ダブりって」
「知らないのか、自分がすでに持ってるカードだよ。『頼む!』って願いながら、最後の一つを開けるも、それもダブり…そのときの、どんより感っていったら」
「どんだけ買ってるんですか…」
「残ったチョコを食べるときの、切なさよ。甘いはずのチョコが、涙で塩辛く感じてさ」
「知らないですよ、また買えばいいじゃないですか」
「いや、全盛期は全然買えなかったんだよ。駄菓子屋、スーパー、どこでも入荷すると即完売でさ…だから、ショックも大きくてなぁ」
「いや、そういうコレクターズ・スピリット、全くないんで…理解できないです」
「まあ、いまでもよくあるじゃん?ほら、ユニクロがマスク売ったり、某デザイナーとコラボしたりするすると、店に行列ができて、ECサイトのサーバーがダウンする、みたいな」
「そう!マスクですよ、どうでもいい話で、忘れるところでした。
「どうでもいいって…」
「いや、どうでもいいでしょ、ダブりとか。それより聞いてくださいよ。さっきまでお客さんとのリモート打合せに参加させられたんですよ」
「ほう」
「アタシ、裏方がいいのに、リモートなら参加できるだろ、直接話した方が早いからって言われて」
「へえ。まあ、いいんじゃない」
「そんで、会議室からつないだんですよ。そしたら、参加者みんなマスクしてるの」
「へえ」
「なんでリモートなのにマスクしてるんですか?意味なくないですか?」
「まあ、つなぐ場所によっては、周りに人がいたのかもしれないし」
「えー、リモートでつなぐ意味なくないですか?」
「まあ、打合せをするって目的は達してるわけだから。マスクして打合せするの、イヤなの?」
「嫌ですよ。だって、ただでさえ画面越しなのに、マスクしてると表情分からなくないですか?」
「ああ、そうだなぁ」
「いや、ほら、アタシ、まわりの空気に敏感な方だから、それだけに、表情とか分からないとしんどくて」
「まわりの空気とかに敏感な人は、聞いて聞いて!のマシンガントークはあんまりしないと思うぞ(そうだよねぇ、それは大変だよねぇ、ほんと)」
「ちょっと、ぎゃく、逆!思ってることと言ってることが!」
「ああ、すまんすまん…でも、確かにリモートで、口元も隠されるとつらいよね」
「そうなんです、ほんと。なんで口元が見えないと、なんか不安になるんですかね」
「『目は口ほどにものを言う』って言うけど、口元って大事だよなぁ。口角が上がってるか、下がってるか、それだけでも全然違うもんな」
「ほんと、マスクが当たり前になっちゃって、相手の表情が分からない中、話しをしたりするのって、ほんとストレスです」
「ああ、なんか、それが当たり前になっちゃってるよな…悲しいことに」
「いつまで続くんですかね、この罰ゲーム」
「んーなかなか、すぐには難しいよな、コロ助もまた元気になってるし」
「え―…」
「表情が分かるマスク、だれか開発しないかな」
「透明のマスクとか?」
「あぁ、いいな、それ。サランラップでも巻いておいたら?」
「そうそう、こうやって、こうやって、ぐるぐるっとね……って、息できないですよ!」
「ああ、すまんすまん。でも、なんか嫌だよね、表情を隠してコミュニケーションするのってさ」
「ほんと、つらたん。。。」
「まあ、すぐにってのも難しいかもしれないけど、またいつか相手の表情を見ながらコミュニケーションを取れる世の中になってほしいよね」
「ほんと。まあ、表情を見なくても別に構わない人もいますけど」
「え?なに?誰?」
「いや、いつもぼんやりして無表情な、あなたのことです(さあ、誰でしょう?)」
「おい、ぎゃく、逆!」