いらっしゃいませ、ようこそお越しくださいました。
以前こちらでも少し綴らせて頂きましたが、私は末っ子で家族の中でピエロ、あるいはバランサーの役割を演じることが多かったようです。
その反面、自分の考えや意思を主張する、ということは苦手な部類に入ります。
必要最低限の自己主張はできると思うのですが、どうしても人との話の中では聞き役にまわることが多く、基本的に自分の主張をごりごり推すということが苦手です。
そんな私が、少しワガママに主張をしてみたというお話し。
その日、私は自宅近くの中華料理屋に少し遅い夕食を摂りに一人で寄ったんです。
その店は、美味しいメニューが豊富、ボリュームたっぷりの飾らない近所の中華料理屋で、以前から度々利用していました。
一人で寄ると、だいたい定食ものを頼むのですが、その日も定食にしようと思いながら、メニューをぱらぱらとめくっていました。
車で来ているので、紹興酒で少しつまむ、という選択肢がないのが残念ではありますが。
定食の中で目に留まったのが、「麻婆豆腐定食」。
少し前に自宅で飯尾醸造さんの「チャオ酢」とやまつ辻田さんの「朝倉粉山椒」を使って麻婆豆腐を作ったところ、とっても美味しくできたのを思い出したのです。
自分で作る麻婆豆腐もいいけど、プロの作る麻婆豆腐もいいな。
そんなことを思いましたが、辻田さんの「朝倉粉山椒」のピリッとした風味を思い出すと、「辛い麻婆豆腐」が食べたくなりました。
辛い麻婆豆腐はないものか、とメニューをめくっていると、ありました。
その名も「陳麻婆豆腐」。
辛子マークがついている辛さ要注意の一品らしい。
けれど、「陳麻婆豆腐」定食はメニューにはありませんでした。
辛い麻婆豆腐、食べたい。
けれど、定食も捨てがたい。
そんな解決しがたい葛藤の中で、しばらくメニューを凝視して悶々としておりました。
見かねたおかあさんが、「何にする?」と聞きにきました。
このおかあさん、愛想はありませんが、厨房と中国語で話しているのを見て、私はいつも「すげー、バイリンガル!」と感心してしまう方なのです。
ここは麻婆豆腐定食で手を打つか・・・
いや、心に宿った陳麻婆豆腐の火を消してしまうのは、あまりにもったいない・・・
さんざん迷ったあげく、私は一つのチャレンジに出ます。
「この定食の麻婆豆腐を、陳麻婆豆腐に変えることできる?」
冒頭に述べたように自己主張が苦手で、しかもそこにあるものを楽しむことができる「適応性」の資質を持っている私にとって、かなりのイレギュラーな行動です。
「チンマーボ?・・・値段、違うよ」
「ああ、その分高くなっても全然いいよ。陳麻婆豆腐とやらが食べたいんだ」
「わかった、じゃ、100円ネ」
「オッケー、オッケー」
やりました。
成し遂げました。
交渉成立、チャレンジ成功です。
まさにメニューにない「陳麻婆定食」をオーダーするという、ミッション・インポッシブルなチャレンジ成功に、私のココロは踊りました。
待つことしばし、辛い麻婆豆腐がやってきました。
辛い、旨い、ごはん、麺、辛い、辛い・・・
汗をかき口の中をヒートさせながら、至福の時間を味わったのでした。
その辛い麻婆豆腐を食べながら、思ったのです。
意外と、ワガママ言っても大丈夫。
というよりもワガママ言うことで、
食べたいものを食べるという自分の望みを叶えられて幸せ。
おかあさんは、売上が通常より100円上がって嬉しい。
帰り際に厨房の方に「辛くて美味しかったよー!」と言って帰ったので、厨房もハッピー。
みんな、ハッピー。
もちろん、ワガママ言うと周りに迷惑かけることもあるかもしれない。
それでも、この日のようにワガママ言ってみたらみんながハッピーになることも、あるかもしれない。
それが、ワガママかどうかは、自分が決めることじゃない。
相手が決めること。
そして、それを判断してもらうためには、言ってみないことには始まらない。
だとしたら、少しワガママと思えるくらいの主張をしてみてもいいのかもしれないな、と思いながら「うま!から!から!」を繰り返す私なのでした。
そんなこんなの楽しいおひとりさま夕餉でしたが、ただ一つだけ後悔があります。
やはり、辛い麻婆豆腐には担々麺よりも、塩味などのあっさりした麺類をチョイスするべきでした。
次回訪れた際には、そんな細部まで気を配って、自分の心地よい時間を整えたいと思います。
今日もお越し頂きましてありがとうございました。
どうぞ、ごゆっくりお過ごしください。